双極性障害②:双極性障害1型
1. 概要
双極性障害1型は入院が必要になるほど激しく、放っておいたら本人の人生が台無しになってしまうほど大変な躁状態そしてうつ状態を繰り返すものである。
2. 躁状態
双極性障害1型は、患者の人生や家庭が破壊されかねない、激しい躁状態がひとつの特徴。しかし、本人にとって躁状態の時は、非常に高揚した爽快な気分になっている。そして自分がとても偉くなったと感じる。夜も寝ず声が嗄れるまでしゃべり続けたり、あるいはまったくじっとしていることができず、一晩中、一日中動き続ける。しかし、本人には疲れが自覚できず身体は消耗してしまう。
知らない人にはとても気さくに話しかけるが、相手が迷惑そうにしていても気づかないことも多い。しばしばあまり必要ないものをたくさん買い込んでしまう。時には借金をしてまで、高級品を買いあさってしまう。性的にも奔放になり、それまで普通に生活していた人が、家族に無断で外泊するようになってしまう場合もある。
新しい考えが競い合うように浮かんでくるが、ひとつのことに集中することができない。最初のうちは、いろいろ良いアイデアが浮かんできて仕事がどんどんはかどるようにも見えるが、そういった時期は長くは続かない。いろいろなことを思いついては手を出し、またすぐに他のことへと気を散らしてしまうため、結局何一つ集中して成し遂げることができない。
思い通りにならないと、ひどく怒ることもある。上司を激しく攻撃したりして、仕事を失ってしまうことも少なくない。
もっとひどくなってくると、自分には超能力があるといった、誇大妄想がでてくる。神の声が聞こえてくるといった、幻聴がでてくることもある。
3. 抑うつ状態
①抑うつ気分
②興味・喜びの喪失
③睡眠障害
④食欲低下
⑤易疲労性、倦怠感
⑥性欲の低下
⑦精神運動制止
⑧思考制止
4. 混合状態
うつ状態から急激に(数日間で)躁状態に変わることを、躁転とよぶ。躁転の経過中には、気分がうっとうしいのに行動が多くなってしまうというようにうつ状態の症状と躁状態の症状が入り混じって現れる、混合状態になる時がある。躁状態からうつ状態に急激に変わる場合は、うつ転とよばれその時にも混合状態になることがある。
5. 回復過程
6. 薬物療法
・炭酸リチウム
・ラモトリギン
・オランザピン
・リスペリドン
・クエチアピン
・アリピプラゾール
7. 症例
42歳、女性、双極性障害1型。
20代後半で結婚し、第1子の出産時に発症した。その後、3回の入退院を経験し、その間にうつ状態と躁状態を繰り返しながらスーパーでパート勤務をしていた時期もある。今回は第3子の幼稚園の役員を引き受けたことを契機に気分が高揚し、父兄に夜中に電話する。約束なく役員の家を訪れる、お金の使い方が荒くなるといった状態となり夫と共に受診し入院となった。入院後は薬物療法にて高揚気分はいくぶん治まったが、「何もしていないと落ち着かない、イライラしてくる」といい、作業療法を希望した。編み物など次々に作品作りを希望するため1日の活動量と作業療法での時間の使い方を話し合い決めていった。
当初は取り組む時間の少なさに不満を述べることもあったが、集団作業療法の場では主婦としてのたいへんさや、がんばって家族を世話してきたことなどを他患と共有する場面もみられ、2週間後には自分から休むことの大切さを自覚できるようになり、面会にきた家族ともゆっくりと話ができるようになった。
1ヶ月後には家族のことが心配だから退院したいという希望を受け、退院後のケア会議が開催された。退院後はストレス解消のためしばらく外来作業療法を利用すること、保健師の訪問時に子育てや役員の続け方を相談していくことなどを調整し、退院となった。