精神疾患の理解を深めるためのブックガイド

作業療法士経験があり精神疾患かつ発達障害当事者であるけん玉が作る精神疾患の理解を深めるためのブログ

神経症性障害②:解離性同一性障害

1. 解離とは

 通常、私たちは、自分の存在をつながったひとまとまりのものとして認識している。つまり、過去から現在までの記憶が途切れなく続いていると感じ、自分がどういう人間であるかというイメージをもつことができる。自分の身体が自分のものであることを実感できる。
 ところが、「解離」では、意識、記憶、思考、感情、知覚、行動、身体イメージなどが分断されて体験される。たとえば、特定の場面や時間の記憶が抜け落ちていて(健忘)、その間に自分らしくない行動をとっていることがある。また、突然ショッキングな記憶や感情が目の前の現実のように甦って体験されたり(フラッシュバック)、自分の身体から抜け出して離れた場所から自分の身体を観ていると感じたり(体外離脱体験)、自分が自分ではないように感じたり、あるいは自分の感情が感じられなかったり(離人感)、夢の中にいるように感じたり、周囲が非現実的に感じて白黒で立体的に感じられなかったりすることもある。
 離人感や白昼夢のように、誰にでも一過性にみられる解離現象もある。幼少期にみられることがある「想像上の友達 imaginary companion」も解離の一種。周囲の人たちとの関係に困難を抱えた子どもたちは、時に、他の人には見えない「想像上の友達」を作り出し、彼らに打ち明け話をしたり、遊び相手になってもらったりして、支えられる体験をする。
 「解離」は、特に子どもたちにとって、こころの防衛として働くが、一方で、心が破綻した症状としても現れる。その場合、自然治癒は難しく、治療が必要になる。つまり、「解離」のために持続的にその人の社会的な機能や対人関係などが脅かされ、障害となる場合、それは症状として治療を要するものとなる。
 なお、解離症状を呈する病気は解離性障害ばかりではなく、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や境界性パーソナリティ障害発達障害などの症状としても現れることがある。

2. 解離性障害および解離性同一性障害とは

 解離性障害は解離症状を主とする病気で、患者さんは、そのために社会的・職業的に支障を来し、対人関係にも困難を抱えている。要因としては心的外傷体験、幼少期の主たる養育者との愛着の問題、解離を生じる素質などが考えられるが、現在の患者さんが抱えているストレス状況も病状の程度や経過に少なからず影響を与える。
解離性障害では、患者さん自身が解離症状に気づいていないことも少なくなく、診断が難しい面がある。
 解離性障害は、解離性同一性障害、解離性健忘、離人感・現実感消失障害などに分類される。
 解離性同一性障害(Dissociative Identity Disorder ; DID)は、一人の人間の中に複数の人格(パーソナリティ)が存在するような状態が見出されるもので、たとえば、自分では制御できない複数の思考の流れや発言を体験することがある。それらの人格の一部がコミュニケーションをもっていることがあるが、他の人格の存在にほとんど気づかず、漠然とした気配としてのみ感じて恐怖を感じているだけのこともある。DIDの大半が幼少期に虐待(特に性的な虐待)を繰り返し受けていると言われており、女性に多いことが知られている。
 解離性健忘は、一般的な出来事や社会常識などの記憶は保たれているにもかかわらず、自伝的な(個人的な)記憶だけが抜け落ちて思い出せないものである。心的外傷体験や強烈なストレス因に関連した記憶だけが選択(限局)的に思い出せないタイプがほとんどだが、まれに自分の名前も経歴も何もかもすべて思い出せない場合もある。
離人感や現実感の消失は誰にでも一過性にみられることがありますが、それが持続的あるいは反復的に現われ、そのために社会的・職業的に支障を来し、対人関係にも困難を抱えた場合には、治療が必要な病気といえます。また、離人感や現実感消失は、うつ病や不安障害と併存することがある。

 

3. 治療および対処

 解離性障害は心的外傷との関連が示唆されているため、治療もそれに準じた心理療法が推奨されている。心理療法を導入する前提として、患者さんの安全を確保する必要がある。たとえば、いま現在もなお暴力に脅かされている環境にいる患者さんには、そこからの脱出を援助することが心理療法に先行するかもしれない。
 心理療法の過程では、治療者に対してさまざまな感情や考えが向けられるが、その中には実際の治療者とはかけ離れていたり、不合理であったりするものもある。それらを率直に話し合い、治療者との信頼関係を築くことが第一の目標になるが、それさえ易しいことではない。気長に、根気強く続けることが大切。
しかし、心理療法は、経済的・時間的制約などの理由から、誰もが受けられる治療ではない。それに代わるほどの治療的パワーはないかもしれないが、イメージ法、呼吸法、筋弛緩法などのリラクゼーション法を用いることによって、不安や緊張の緩和に努めることは有用。たとえば、イメージ法では、患者さんに「安全で、安心できる場所にいること」を具体的に想像してもらうように話す。その場合、ゆっくりと深呼吸をしてもらったり、鎮静効果のあるアロマオイルをおいたり、静かな音楽をかけたりすることなどを組み合わせて行うと、より効果的である。

解離性障害に対して、わが国の医療保険の適応となっている薬剤はなく、海外でも有効性が確認されている薬剤もない。心的外傷後ストレス障害に対する有効性が報告されている薬剤(選択的セロトニン再取り込み阻害薬など)の投与が試みられることがあるが、すべての患者さんに有効であるとはいえない。また、不安や抑うつなどに対症療法的に投薬されることがある。その場合は、依存性をもたらす可能性や、衝動を抑えられなくなってしまう可能性があるベンゾジアゼピン系薬剤は控えることが望ましいと考えられている。