精神疾患の理解を深めるためのブックガイド

作業療法士経験があり精神疾患かつ発達障害当事者であるけん玉が作る精神疾患の理解を深めるためのブログ

神経症性障害②:解離性同一性障害

1. 解離とは

 通常、私たちは、自分の存在をつながったひとまとまりのものとして認識している。つまり、過去から現在までの記憶が途切れなく続いていると感じ、自分がどういう人間であるかというイメージをもつことができる。自分の身体が自分のものであることを実感できる。
 ところが、「解離」では、意識、記憶、思考、感情、知覚、行動、身体イメージなどが分断されて体験される。たとえば、特定の場面や時間の記憶が抜け落ちていて(健忘)、その間に自分らしくない行動をとっていることがある。また、突然ショッキングな記憶や感情が目の前の現実のように甦って体験されたり(フラッシュバック)、自分の身体から抜け出して離れた場所から自分の身体を観ていると感じたり(体外離脱体験)、自分が自分ではないように感じたり、あるいは自分の感情が感じられなかったり(離人感)、夢の中にいるように感じたり、周囲が非現実的に感じて白黒で立体的に感じられなかったりすることもある。
 離人感や白昼夢のように、誰にでも一過性にみられる解離現象もある。幼少期にみられることがある「想像上の友達 imaginary companion」も解離の一種。周囲の人たちとの関係に困難を抱えた子どもたちは、時に、他の人には見えない「想像上の友達」を作り出し、彼らに打ち明け話をしたり、遊び相手になってもらったりして、支えられる体験をする。
 「解離」は、特に子どもたちにとって、こころの防衛として働くが、一方で、心が破綻した症状としても現れる。その場合、自然治癒は難しく、治療が必要になる。つまり、「解離」のために持続的にその人の社会的な機能や対人関係などが脅かされ、障害となる場合、それは症状として治療を要するものとなる。
 なお、解離症状を呈する病気は解離性障害ばかりではなく、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や境界性パーソナリティ障害発達障害などの症状としても現れることがある。

2. 解離性障害および解離性同一性障害とは

 解離性障害は解離症状を主とする病気で、患者さんは、そのために社会的・職業的に支障を来し、対人関係にも困難を抱えている。要因としては心的外傷体験、幼少期の主たる養育者との愛着の問題、解離を生じる素質などが考えられるが、現在の患者さんが抱えているストレス状況も病状の程度や経過に少なからず影響を与える。
解離性障害では、患者さん自身が解離症状に気づいていないことも少なくなく、診断が難しい面がある。
 解離性障害は、解離性同一性障害、解離性健忘、離人感・現実感消失障害などに分類される。
 解離性同一性障害(Dissociative Identity Disorder ; DID)は、一人の人間の中に複数の人格(パーソナリティ)が存在するような状態が見出されるもので、たとえば、自分では制御できない複数の思考の流れや発言を体験することがある。それらの人格の一部がコミュニケーションをもっていることがあるが、他の人格の存在にほとんど気づかず、漠然とした気配としてのみ感じて恐怖を感じているだけのこともある。DIDの大半が幼少期に虐待(特に性的な虐待)を繰り返し受けていると言われており、女性に多いことが知られている。
 解離性健忘は、一般的な出来事や社会常識などの記憶は保たれているにもかかわらず、自伝的な(個人的な)記憶だけが抜け落ちて思い出せないものである。心的外傷体験や強烈なストレス因に関連した記憶だけが選択(限局)的に思い出せないタイプがほとんどだが、まれに自分の名前も経歴も何もかもすべて思い出せない場合もある。
離人感や現実感の消失は誰にでも一過性にみられることがありますが、それが持続的あるいは反復的に現われ、そのために社会的・職業的に支障を来し、対人関係にも困難を抱えた場合には、治療が必要な病気といえます。また、離人感や現実感消失は、うつ病や不安障害と併存することがある。

 

3. 治療および対処

 解離性障害は心的外傷との関連が示唆されているため、治療もそれに準じた心理療法が推奨されている。心理療法を導入する前提として、患者さんの安全を確保する必要がある。たとえば、いま現在もなお暴力に脅かされている環境にいる患者さんには、そこからの脱出を援助することが心理療法に先行するかもしれない。
 心理療法の過程では、治療者に対してさまざまな感情や考えが向けられるが、その中には実際の治療者とはかけ離れていたり、不合理であったりするものもある。それらを率直に話し合い、治療者との信頼関係を築くことが第一の目標になるが、それさえ易しいことではない。気長に、根気強く続けることが大切。
しかし、心理療法は、経済的・時間的制約などの理由から、誰もが受けられる治療ではない。それに代わるほどの治療的パワーはないかもしれないが、イメージ法、呼吸法、筋弛緩法などのリラクゼーション法を用いることによって、不安や緊張の緩和に努めることは有用。たとえば、イメージ法では、患者さんに「安全で、安心できる場所にいること」を具体的に想像してもらうように話す。その場合、ゆっくりと深呼吸をしてもらったり、鎮静効果のあるアロマオイルをおいたり、静かな音楽をかけたりすることなどを組み合わせて行うと、より効果的である。

解離性障害に対して、わが国の医療保険の適応となっている薬剤はなく、海外でも有効性が確認されている薬剤もない。心的外傷後ストレス障害に対する有効性が報告されている薬剤(選択的セロトニン再取り込み阻害薬など)の投与が試みられることがあるが、すべての患者さんに有効であるとはいえない。また、不安や抑うつなどに対症療法的に投薬されることがある。その場合は、依存性をもたらす可能性や、衝動を抑えられなくなってしまう可能性があるベンゾジアゼピン系薬剤は控えることが望ましいと考えられている。

統合失調症②:病型分類

1. 診断基準

 統合失調症は急性期の特徴的臨床症状、発病後の社会的または職業的機能の減退、および症状の持続期間によって診断される。

 急性期症状として、

(1)幻覚

(2)妄想

(3)まとまりのない発語(連合弛緩)

(4)ひどくまとまりのないまたは緊張病性の行動

(5)陰性症状のうち2つ以上が少なくとも1ヶ月間存在することが必要

とされる。

症状の持続期間は急性期症状の1ヶ月を含み、少なくとも6ヶ月以上でなければならないが、これには前駆期、残遺期も含まれる。

 持続期間が6ヶ月未満の場合は統合失調症様障害、1ヶ月未満の場合は短期精神病性障害とする。

 

2. 症状の概要

①陽性症状

・幻覚

・妄想

・思考滅裂

陰性症状

・無為

・自閉

・感情の平板化

 

3. 病型分類

①妄想型

 妄想型は最もよくみられる病型である。被害妄想が症状の中心で被害的内容の幻聴を伴うことが多い。妄想はしばしば体系化する。思考形式の障害、感情の障害、緊張病症状、陰性症状はそれほど顕著ではない。他の病型に比較して、発症年齢が遅く、人格水準は保たれ、予後は良いことが多い。

 

②破瓜型

 思考形式障害と感情の障害が顕著な病型であり、解体型とも呼ばれてきた。思考は解体しており、会話はまとまりがない。気分は変わりやすく、行動はしばしば思慮に欠け、予測しがたい。幻覚や妄想は一時的、断片的で体系化しない。発症年齢は早く、陰性症状が早期に生じ、予後は不良である。

 

③緊張型

 緊張病症候群が病像の中心である。興奮と昏迷の間を交替する。カタレプシー、反響言語、反響動作、拒絶症などがみられる。かつてはよくみられた病型だが、現在は先進諸国ではまれになっている。なお、DSM5では、緊張病は統合失調症だけでなく、うつ病双極性障害などさまざまな疾患に伴うことがあるので、統合失調症の病型ではなく、多くの疾患に合併しうる病態として扱われることとなった。

 

④単純型

 行動の奇妙さ、社会的機能の低下、感情鈍麻などの陰性症状が、潜行性に生じ進行性に発展するまれな障害とされる。幻覚や妄想ははっきりしない。明らかな陽性症状を欠くため、診断が難しい。

 

4. 症例

50代の女性、統合失調症

 結婚前は会社勤務をしていた。第2子をもうけた20代後半に発症し離婚後は実家の母と兄の世話を受けながら子育てをしてきた。ときおり体感幻覚や誇大的な妄想が二重見当識のように現れるが、人好きな性格もあって、表面的な対人交流は保たれていた。

 30代後半に病状の変化から過量服薬にて入院し、退院後に自己コントロール、生活管理技能、対人交流技能などの改善目的で外来作業療法が開始された。

 パラレルな作業療法の場では、初対面の相手に挨拶がわりのように妄想内容を話すため、本人への不利益を説明し、「その話は主治医と作業療法士以外にはしない」という枠付けをし、人好きな性格と上達した革細工の技能を活かして、他のメンバーにお茶を用意したり、革細工の道具の使い方を指導したりする役割行動を促した。生活管理については家計のやりくり、料理や弁当づくり、思春期を迎える子どもへの対応、干渉的な母親への対応など、いくつもの課題を作業療法の中で検討してきた。

 子どもが県外の大学に進学する頃には、寂しさから何度目かの過量服薬・入院をしたが、入院時には母親に代わって作業療法で知り合った友人が付き添い、心理的なサポートをした。現在は、年老いた母親の面倒をみながら、紹介した地域活動支援センターにボランティアとして通い、時々作業療法室にも近況報告に訪れている。

うつ病②:症状論

1.症状

A. 感情の障害

 うつ状態または抑うつ状態でみられる基本症状は抑うつ気分である。誘因の有無に関わらず、徐々に気分が沈み憂うつになる。また、周囲の出来事が生き生きと感じられなくなり、さらに進むと喜怒哀楽の感情も薄れ、何事にも無感動となる(無感情)

 テレビや新聞にも興味を失い趣味や人との会話を楽しめなくなる。さらに理由もなく寂しくなったり、悲しくなったりして涙が流れるといった悲哀感を感ずることもある。

 自我感情も低下するため、自分を過小評価し、強い劣等感もみられ、自分の人生や周囲の物事に悲観的、絶望的となり、自殺念慮(希死念慮)を抱くことも珍しくない。

 不安や焦燥感が強いうつ状態では、落ち着きなく室内を歩き回ったりじっと座っていることができず、立ったり、座ったりを繰り返したり、胸内苦悶などの身体感覚の異常を執拗に訴えたりする(興奮性または激越性うつ病)

 

B. 意欲・行為の障害

 意欲や行為の障害は精神運動制止(抑制)としてまとめられる。

 患者は自分が何をやらなければならないかをわかっていても、「頭ではわかっていても身体が動かない」、「何もかもが億劫」などと訴え、行動がスムーズにできない。このため不安や焦燥がいっそう悪化することもある。

 障害の程度が軽ければ周囲に気づかれることなく、なんとか日常のことは頑張ってできるが、新しいことを始めることは困難となり、仕事の能率は低下する。

 症状が進むと人に会うのも億劫で接触を避けるようになる。食事や洗面、入浴など身の回りのことすらも自分ではできなくなる。さらに進めば、自発的な動きは全くみられなくなり、話しかけにも応答しなくなる。

 

C. 思考の障害

 思考の障害で最も特徴的な症状が思考制止(抑制)である。これは、「考えることができない」、「頭が空っぽになった」、「何も頭に浮かばない」などと訴えることが多く、質問しても応答が遅く、その内容も乏しい状態となる。

 思考内容が障害される場合に出現する妄想は、①罪業妄想、②貧困妄想、③心気妄想などの各妄想で抑うつ気分から二次的に生じたため、了解可能。

うつ病に特徴的な妄想

罪業妄想

 自分はとても罪深い人間なので、罰せられなければならないと思い込んでしまう妄想

②貧困妄想

 根拠もないのに破産した、お金がないなどと信じ込んでしまう妄想

③心気妄想

 自分が重い病気にかかったと信じ込んでしまう妄想

 

D. 身体症状

 うつ状態で最も多く認められるのが①入眠障害、②中途覚醒、③早朝覚醒などの睡眠障害であり、ほぼ必発する。睡眠過剰を示し、昼間も傾眠傾向がみられる場合もある。

 次に多くみられるのは、疲労感、倦怠感、食欲低下である。身体がだるく、疲れやすくなるため仕事が長続きせず甚だしくなると1日中臥床がちになったりする。また、体重も通常、数kg程度の減少を伴う。悪心、嘔吐、便秘、下痢、胃部不快感などの消化器症状も多くみられる。性欲の低下も多くに認められ、食欲低下とともにうつ病の比較的悦敏な指標となる。

 その他に口渇、発汗などの自律神経症状、月経異常、頭重感、身体各部の疼痛や手足のしびれなどの感覚異常を訴えることも多い。

*こうした身体症状は、抑うつ気分とともにうつ病の本質的症状とみなされる。

 

2. 治療法

薬物療法

抗うつ薬

SSRI

フルボキサミン(デプロメールルボックス)

パロキセチン(パキシル)

セルトラリン(ジェイゾロフト)

SNRI

ミルナシプラン(トレドミン)

デュロキセチン(サインバルタ)

ノルアドレナリン作動性特異的セロトニン作動性効うつ薬(NaSSA)

ミルタザピン(リフレックス、レメロン)

認知行動療法
・精神療法

3. 症例

 35歳男性、単極性うつ病

 大学卒業後、高校の教師をしていた。生来もの静かで生真面目、頼まれた仕事は断れないことが多く、データ整理などの業務を一手に引き受けていた。転勤と同時に学年主任になってから落ち込むことが多くなり、後輩からデータの間違いを指摘されてから出勤できなくなり、家で寝ていることが多くなった。心配した妻と受診し休息のため入院となった。薬物療法と休息にてうつ症状は改善し、入院10日目に作業療法が処方された。短時間のストレッチから開始し、身体感覚を通して回復感を確認していった。徐々に集団作業療法への参加も可能となり、パソコンで好きな詩を打つようになった。「ゆっくりした時間がもてるようになった、人との交流が楽しいと感じられるようになった」と言い、パソコンの操作を他患に教える姿もみられるようになった。

 1ヶ月を経過した頃より、作業療法士との面接を通して他者からの頼みを断れない、完璧を求める傾向、自己評価が低いなどの認知行動の特徴を振り返り、復職へ向けた具体的な支援を行った。負担感の軽減をはかるために学年主任の役割をはずしてもらい、当分の間は自分の担当科目のみ授業を行い、午前中の勤務時間にすることなどを学校側と調整

し、退院することとなった。2週に1回の外来通院時には作業療法士と面接をしながら、勤務内容や時間の調整を継続している。

 

 

うつ病の人に言っていいこと・いけないこと (健康ライブラリーイラスト版)

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双極性障害②:双極性障害1型

1. 概要

 双極性障害1型は入院が必要になるほど激しく、放っておいたら本人の人生が台無しになってしまうほど大変な躁状態そしてうつ状態を繰り返すものである。

 

2. 躁状態

 双極性障害1型は、患者の人生や家庭が破壊されかねない、激しい躁状態がひとつの特徴。しかし、本人にとって躁状態の時は、非常に高揚した爽快な気分になっている。そして自分がとても偉くなったと感じる。夜も寝ず声が嗄れるまでしゃべり続けたり、あるいはまったくじっとしていることができず、一晩中、一日中動き続ける。しかし、本人には疲れが自覚できず身体は消耗してしまう。

 知らない人にはとても気さくに話しかけるが、相手が迷惑そうにしていても気づかないことも多い。しばしばあまり必要ないものをたくさん買い込んでしまう。時には借金をしてまで、高級品を買いあさってしまう。性的にも奔放になり、それまで普通に生活していた人が、家族に無断で外泊するようになってしまう場合もある。

 新しい考えが競い合うように浮かんでくるが、ひとつのことに集中することができない。最初のうちは、いろいろ良いアイデアが浮かんできて仕事がどんどんはかどるようにも見えるが、そういった時期は長くは続かない。いろいろなことを思いついては手を出し、またすぐに他のことへと気を散らしてしまうため、結局何一つ集中して成し遂げることができない。

 思い通りにならないと、ひどく怒ることもある。上司を激しく攻撃したりして、仕事を失ってしまうことも少なくない。

 もっとひどくなってくると、自分には超能力があるといった、誇大妄想がでてくる。神の声が聞こえてくるといった、幻聴がでてくることもある。

 

3. 抑うつ状態

抑うつ気分

②興味・喜びの喪失

睡眠障害

④食欲低下

⑤易疲労性、倦怠感

⑥性欲の低下

⑦精神運動制止

⑧思考制止

 

4. 混合状態

 うつ状態から急激に(数日間で)躁状態に変わることを、躁転とよぶ。躁転の経過中には、気分がうっとうしいのに行動が多くなってしまうというようにうつ状態の症状と躁状態の症状が入り混じって現れる、混合状態になる時がある。躁状態からうつ状態に急激に変わる場合は、うつ転とよばれその時にも混合状態になることがある。

 

5. 回復過程

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6. 薬物療法

気分安定剤

・炭酸リチウム

バルプロ酸

・ラモトリギン

カルバマゼピン

非定型抗精神病薬(第2世代抗精神病薬)

・オランザピン      

・リスペリドン

・クエチアピン

・アリピプラゾール

 

7. 症例

42歳、女性、双極性障害1型。

20代後半で結婚し、第1子の出産時に発症した。その後、3回の入退院を経験し、その間にうつ状態躁状態を繰り返しながらスーパーでパート勤務をしていた時期もある。今回は第3子の幼稚園の役員を引き受けたことを契機に気分が高揚し、父兄に夜中に電話する。約束なく役員の家を訪れる、お金の使い方が荒くなるといった状態となり夫と共に受診し入院となった。入院後は薬物療法にて高揚気分はいくぶん治まったが、「何もしていないと落ち着かない、イライラしてくる」といい、作業療法を希望した。編み物など次々に作品作りを希望するため1日の活動量と作業療法での時間の使い方を話し合い決めていった。

 当初は取り組む時間の少なさに不満を述べることもあったが、集団作業療法の場では主婦としてのたいへんさや、がんばって家族を世話してきたことなどを他患と共有する場面もみられ、2週間後には自分から休むことの大切さを自覚できるようになり、面会にきた家族ともゆっくりと話ができるようになった。

 1ヶ月後には家族のことが心配だから退院したいという希望を受け、退院後のケア会議が開催された。退院後はストレス解消のためしばらく外来作業療法を利用すること、保健師の訪問時に子育てや役員の続け方を相談していくことなどを調整し、退院となった。

 


双極性障害②:双極性障害1型

 

双極性障害[第2版] (ちくま新書)

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発達障害②:ASD

1. 概要

 主な特性は「臨機応変な対人関係が苦手」なことと、「こだわりが強い」こと。具体的には、場の空気が読めない、独特な言葉遣いをする、人に対して一方的な関わりをする、興味の範囲が狭い、手順やルールにこだわるなどの行動がみられる。

 

2. 診断基準からみた特性

①社会性の特徴

 ・立場を気にせずトラブルになることがある

 ・融通が利きにくい

 ・正直すぎる

 ・常識不足と言われることがある

 ・協調性が少ない

 ・相手の気持ちが分からないことがある

 ・相手の顔色を気にし、不安になる、疲れる

 

②コミュニケーションの特徴

 ・言葉通りに理解する

 ・はっきりと言われないと気づきにくい

 ・説明がまわりくどくなりやすい

 ・表現が独特、堅苦しい

 ・相手の表情や状況が理解しづらく、会話が一方的になる

 ・気持ちや言いたいことがうまく言えない

 

③想像力の特徴

 ・興味が偏りやすい

 ・みんなの好きなことに合わせるのが苦手

 ・興味が持てない、意義が分からないことにはとりかかりづらい

 ・予定外のことへの焦りが強い、見通しがないと心配になる

 ・いつもと違うと焦る、臨機応変が苦手

 ・全体を把握するのが苦手

 

3. 情報処理過程からみた特性

・Input

①感覚特性

(1) 視覚

・特定の視覚刺激(文字、色、形など)がつらい

・色や明るさに左右されやすい

・特定の視覚刺激でリラックスできる

(2) 聴覚

 ・特定の音色、音声、高低に敏感、不快に感じる、つらい

 ・予期せぬ音、大きな音で不安やパニックになる

(3) 触覚

 ・特定の触覚刺激が苦手

 ・濡れる、触られることに抵抗がある

②理解の優位性

(1) 視覚優位

 ・口頭で説明されるよりも写真や絵、手順書など見てわかる方が理解しやすい

(2) 聴覚優位

 ・言葉で説明される方が理解しやすい

*(1)視覚優位⇔(2)聴覚優位

(3) 同時処理

 ・複数の情報をまとまりとして理解する

 ・全体像を示された方が理解しやすい

(4) 継次処理

 ・手順を追って一つずつ説明すると理解がスムーズ

*(3)同時処理⇔(4)継次処理

 

・処理・判断・Output

③対人関係

・相手の表情や身振りを見て相手の感情を理解(推測)する事

が苦手

・Goサイン、No-Goサインが分からない、判断しづらい

・相手の状況に構わず話しかけてしまう

・例え話や曖昧な言語表現がわかりづらい

・決まった場所やタイミングでのあいさつや報告等、定型的

なコミュニケーションが苦手

・職場での相談、休憩中の雑談など、その場に応じた柔軟なコミュニケーションが苦手

ASDの特性は個人によって異なるため、様々な様相を呈する。

 

4. 治療法

認知行動療法

SST(社会生活スキルトレーニング)

*二次障害の疾患に対する薬物療法は行われるが、ASD例に対する薬物療法は原則行われない

 


発達障害②:ASD

 

 

 

 

自閉スペクトラム症の理解と支援 ―子どもから大人までの発達障害の臨床経験から―

自閉スペクトラム症の理解と支援 ―子どもから大人までの発達障害の臨床経験から―

 

 

神経症性障害①:パニック障害

1. 概要

予知できない強烈な恐れの感情が一過性、急激かつ反復性に起こる状態をパニック発作という。発作が反復するとまた発作が起きるのでないかという持続的な恐れが生じる。これを予期不安という。

発作が特定の場所でおこると患者はそのような場所を避けるようになる。これを空間恐怖という。パニック発作、予期不安、空間恐怖がともに存在し、しかも生活に支障をきたす状態をパニック障害とよぶ。

 

2. 症状

①動悸・頻脈

②息苦しさ・過呼吸

③このまま死んでしまうのではないかという強い恐れ

の3つが典型的である。(中核症状)

その他に、(周辺症状)

・めまいや吐き気

・手足のしびれ

・冷汗

・胸痛

・非現実感(離人感あるいは現実的喪失)などもみられる

 

3. 経過

 パニック発作の誘因はなく、客観的には危険がない環境でおこる。のんびりしていたり、通勤中、場合によっては睡眠中におこることもある。患者は恐怖と自律神経症状が次第に高まっていくのを体験し、急いでその場を立ち去ろうとする。発作は1ヶ月の間に数回おこる。パニック発作が恐ろしく通勤や旅行中の電車や飛行機の中でおきたらどうしようという不安から1人で外出できなくなる。

 

 長期経過をみていくと、うつ病を発症することがあり、また抗うつ薬が効果があることから、うつ病との関連性も考慮されている。

 このようにパニック障害うつ病を経過中に示す状態を共病性と呼んでいる。この疾患は全人口の1~3%程度にほぼ一定しておこり、特に30歳代の女性に多いといわれている。

 

4. 発症仮説

 乳酸や炭酸ガスが曝露することによって引き起こされたり、睡眠中に引き起こされたりすることから、一種の脳の機能障害と考える立場もある。青斑核におけるノルアドレナリン作動性神経活動の過剰を示唆する者もいる。

 

5. 治療法

・精神療法

・行動療法(曝露反応妨害法)

薬物療法

ベンゾジアゼピン抗不安薬

アルプラゾラム

・ロフラゼプ酸エチル

ロラゼパム

ジアゼパム

②三環系抗うつ薬

SSRI

 

参考文献:標準精神医学第6版

 


神経症性障害①:パニック障害

 

 

パニック障害と過呼吸 (幻冬舎新書)

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パニック障害ハンドブック―治療ガイドラインと診療の実際

パニック障害ハンドブック―治療ガイドラインと診療の実際

 

 

病識理解の重要性について

1. 概要

病気を受け入れて自己変革をするためには、次のようなプロセスが重要となり特に初期段階である病識理解は極めて重要と言われている。

 

①病識理解

自分が病気であるという認識をもつこと(障害受容が欠かせない)

②病態理解:病気について知識を身につけること

③自己理解:①、②を基に性格、病気の特性、認知の歪みなどを多角

的に捉え、自己についての理解を深めると共に対処法、治療法につ

いても考えること、精神性発達理論が有効。

 

2. 病識理解のための障害受容

(1)初めに

障害を持つようになった人が、「自分の障害をどのように受け止め、自分のなかにどう位置づけるのか」といった障害受容の問題は重要。

(2)「障害受容」とは

「障害を直視し、障害に立ち向かい、障害とともに生きることも自己の生き方の一つであると受け止め、生活していくことである」

しかし、定義を厳密に述べている論文は極めて少なく、また簡単すぎてしまい、誤解が生じてしまう可能性もある。

(3)障害受容の5段階

障害受容には次のような段階があるといわれている。

①ショック期:自分自身に何が起こったか理解できない状態。

→しかし、この時期は長くは続かず少しずつ現実を認識できるようになる。

②否認期:自分の障害から、目を背けて認めようとしない時期。

→気持ち的なショックを和らげる意味で重要な時期。しかし、訓練などには積極的ではなく、この時期が長く続くとリハビリを拒否するなどの影響が出てくる。

③混乱期:「怒り」・「悲しみ」・「抑うつ」などが現れる時期。

→家族や医療従事者とのトラブルが生まれやすい時期。しかし、この「怒り」は特定の人に向けられたものではなく、行き場のない怒りを出している事を理解して、受け止めることが大切。

④解決への努力期:様々な事をきっかけにし、病気や障害に負けずに生きようと努力する時期。

⑤受容期:自分の障害をポジティブに前向きに捉えられるようになる時期。

→ネガティブなものではなく、「障害があっても色々な事が出来る」、「障害があるから別の生き方を味わえた」「社会(家庭)のなかで何らかの新しい役割や仕事を得て活動をはじめ、その生活に生きがいを感じるようになった」という様な状態のこと。

もちろん、全ての人が同じような心理的な変化を経験するわけではない。しかし、多くの方にこうした心境の変化が現れると考えられる。