精神疾患の理解を深めるためのブックガイド

作業療法士経験があり精神疾患かつ発達障害当事者であるけん玉が作る精神疾患の理解を深めるためのブログ

うつ病②:症状論

1.症状

A. 感情の障害

 うつ状態または抑うつ状態でみられる基本症状は抑うつ気分である。誘因の有無に関わらず、徐々に気分が沈み憂うつになる。また、周囲の出来事が生き生きと感じられなくなり、さらに進むと喜怒哀楽の感情も薄れ、何事にも無感動となる(無感情)

 テレビや新聞にも興味を失い趣味や人との会話を楽しめなくなる。さらに理由もなく寂しくなったり、悲しくなったりして涙が流れるといった悲哀感を感ずることもある。

 自我感情も低下するため、自分を過小評価し、強い劣等感もみられ、自分の人生や周囲の物事に悲観的、絶望的となり、自殺念慮(希死念慮)を抱くことも珍しくない。

 不安や焦燥感が強いうつ状態では、落ち着きなく室内を歩き回ったりじっと座っていることができず、立ったり、座ったりを繰り返したり、胸内苦悶などの身体感覚の異常を執拗に訴えたりする(興奮性または激越性うつ病)

 

B. 意欲・行為の障害

 意欲や行為の障害は精神運動制止(抑制)としてまとめられる。

 患者は自分が何をやらなければならないかをわかっていても、「頭ではわかっていても身体が動かない」、「何もかもが億劫」などと訴え、行動がスムーズにできない。このため不安や焦燥がいっそう悪化することもある。

 障害の程度が軽ければ周囲に気づかれることなく、なんとか日常のことは頑張ってできるが、新しいことを始めることは困難となり、仕事の能率は低下する。

 症状が進むと人に会うのも億劫で接触を避けるようになる。食事や洗面、入浴など身の回りのことすらも自分ではできなくなる。さらに進めば、自発的な動きは全くみられなくなり、話しかけにも応答しなくなる。

 

C. 思考の障害

 思考の障害で最も特徴的な症状が思考制止(抑制)である。これは、「考えることができない」、「頭が空っぽになった」、「何も頭に浮かばない」などと訴えることが多く、質問しても応答が遅く、その内容も乏しい状態となる。

 思考内容が障害される場合に出現する妄想は、①罪業妄想、②貧困妄想、③心気妄想などの各妄想で抑うつ気分から二次的に生じたため、了解可能。

うつ病に特徴的な妄想

罪業妄想

 自分はとても罪深い人間なので、罰せられなければならないと思い込んでしまう妄想

②貧困妄想

 根拠もないのに破産した、お金がないなどと信じ込んでしまう妄想

③心気妄想

 自分が重い病気にかかったと信じ込んでしまう妄想

 

D. 身体症状

 うつ状態で最も多く認められるのが①入眠障害、②中途覚醒、③早朝覚醒などの睡眠障害であり、ほぼ必発する。睡眠過剰を示し、昼間も傾眠傾向がみられる場合もある。

 次に多くみられるのは、疲労感、倦怠感、食欲低下である。身体がだるく、疲れやすくなるため仕事が長続きせず甚だしくなると1日中臥床がちになったりする。また、体重も通常、数kg程度の減少を伴う。悪心、嘔吐、便秘、下痢、胃部不快感などの消化器症状も多くみられる。性欲の低下も多くに認められ、食欲低下とともにうつ病の比較的悦敏な指標となる。

 その他に口渇、発汗などの自律神経症状、月経異常、頭重感、身体各部の疼痛や手足のしびれなどの感覚異常を訴えることも多い。

*こうした身体症状は、抑うつ気分とともにうつ病の本質的症状とみなされる。

 

2. 治療法

薬物療法

抗うつ薬

SSRI

フルボキサミン(デプロメールルボックス)

パロキセチン(パキシル)

セルトラリン(ジェイゾロフト)

SNRI

ミルナシプラン(トレドミン)

デュロキセチン(サインバルタ)

ノルアドレナリン作動性特異的セロトニン作動性効うつ薬(NaSSA)

ミルタザピン(リフレックス、レメロン)

認知行動療法
・精神療法

3. 症例

 35歳男性、単極性うつ病

 大学卒業後、高校の教師をしていた。生来もの静かで生真面目、頼まれた仕事は断れないことが多く、データ整理などの業務を一手に引き受けていた。転勤と同時に学年主任になってから落ち込むことが多くなり、後輩からデータの間違いを指摘されてから出勤できなくなり、家で寝ていることが多くなった。心配した妻と受診し休息のため入院となった。薬物療法と休息にてうつ症状は改善し、入院10日目に作業療法が処方された。短時間のストレッチから開始し、身体感覚を通して回復感を確認していった。徐々に集団作業療法への参加も可能となり、パソコンで好きな詩を打つようになった。「ゆっくりした時間がもてるようになった、人との交流が楽しいと感じられるようになった」と言い、パソコンの操作を他患に教える姿もみられるようになった。

 1ヶ月を経過した頃より、作業療法士との面接を通して他者からの頼みを断れない、完璧を求める傾向、自己評価が低いなどの認知行動の特徴を振り返り、復職へ向けた具体的な支援を行った。負担感の軽減をはかるために学年主任の役割をはずしてもらい、当分の間は自分の担当科目のみ授業を行い、午前中の勤務時間にすることなどを学校側と調整

し、退院することとなった。2週に1回の外来通院時には作業療法士と面接をしながら、勤務内容や時間の調整を継続している。

 

 

うつ病の人に言っていいこと・いけないこと (健康ライブラリーイラスト版)

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